第8章 冬日
林の中を少し進むと、小高い丘があった。
そこは町全体が見渡せ、夜景がとてもきれいだった。
「前に…ここであいつに告ったんだ、だから…美寿子と来て、あいつの事、忘れようって決めた。」
「冴杜…忘れなくたって…」
「…俺が決めたんだ…母さんや父さんに言われたからじゃない、美寿子とここに来て、ちゃんとあいつとの記憶にケリをつけたいから。」
そう言うと美寿子は黙って俺のとなりにいた。
ただ黙って俺の手を離すことはなかった。
「…冴杜、私はね、由理さんの事、忘れなくても良いんだと思うの。」
「…え?…」
「忘れたら…もう二度と思い出せない。
思い出したくないのかもしれないけど、きっとそれも大切な記憶のはずだから…」
美寿子と繋いでいた手が強く握られる。
「やっぱり、美寿子は俺の事何でもわかるんだな。」
「うん、冴杜分かりやすいからね。」
そう言うとしばらく俺たちはそこから見える夜の景色を見つめていた。
「私の夢、教えてあげよっか?」
「あぁ、」
「私の夢はね、冴杜の最後の人になりたいの。
どんなときも冴杜の側にいたい、冴杜の事分かってあげたい。
それが私の夢。」
「…美寿子は素直でよろしい。」
「な、何で頭撫でるのよ…」
「ただ単に撫でたくなった。
だからさ、もう一生、俺の側を離れないでくれ…」
「…当たり前だよ…絶対に離さない。」
美寿子は繋いだ手を固く握り、夜風を仰いだ。
空には満天の星が輝き、さっきまでの雪は、どうしたものか止んでいた。
美寿子はそっと俺の肩にもたれて来る。
俺はその温もりを感じながら町並みを見つめた。
「じゃあ、最後に…」
そう言って俺は美寿子の手を引いて抱き締めるように口付けをした。
「んっ…ずるいよ、冴杜。」
「わりぃな、」
繋いだ手はずっと、ずっと離れることはなかった。