第4章 夏晴
それは俺がいつもの様に教室に由理を迎えに行ったときだ。
夕暮れ、日が差す教室に俺は“それ”を見た。
俺は由理がクラスの担任と重なっているのを影から見てしまった。
「それから俺は逃げた。
目の前の事がわからなかった。」
彼女が、純粋に笑っていた彼女が、あんな顔をするのを自分で認めることが出来ず、
否定してしまった。
「それから俺は泣いたよ。
中学生の癖に大声をあげて泣いた。
それから、俺の親達は俺を病院に連れて回った。
学校に行けずに検査をしていた日もあった。」
「そんな…」
「そんで…久しぶりに学校に行ったときだった…」
学校に行くと、あの教師は平気な顔で俺の授業に出ていた。
俺はその間、ずっとそいつを睨み続けていたと思う。
自分でも今思えば酷い表情だと思った。
それから、俺の眉間には皺が寄りっぱなしになってしまった。
「あぁ…辛かったな。
あんな光景見せられて、そんな事露知らないあいつが普通に話してくるんだ。
もう死にたかったよ。」
「冴杜…もういいよ…」
「いや、まだあるんだ…
俺もちゃんと話さなくちゃいけない。」
その日の昼休みだった。
いつも由理と飯を食べる約束を破り、俺は校舎と校舎の間の日の差さないじめじめとした所でパンを一人食べていた。
と、奥の方で何かが潰れた音がした。
奥の方は行き止まりになっていて、更に暗く、近づかないと分からないほどだ。
「そん時、俺はこの世界に俺の味方はいなかった、そう思ったよ。」
もはや原型を留めていない死体が二つ。
一つは女子の制服を纏っていて、もう一つは今日見た教師の服だった。
そして、その女子制服から見慣れた携帯と俺と同じキーホルダーがはみ出ていた。
「そうして由理はあいつと心中したんだ。」
「…冴杜…」
美寿子は泣いていた。
涙が俺の手に落ちてきた。
「それからは、教師と生徒間の恋愛心中で裁判が始まった。
もちろん俺は恋人…いや、元彼として召喚された。」
裁判の内容を終わったあとに他の先生に聞いたら、由理は妊娠していたらしい。
3ヶ月だったそうだ。
もちろん、俺はキスすらしていない。
そうやって世界は俺を拒んだんだと、俺はそれから廃れていった。