第2章 水無月の五日/文月の八日
元治元年六月五日ーー旧暦ではあるが、その日は150年以上前にある事件があった日である。
「……今年も来たんだ。」
新選組が一躍その名を轟かせる元となった事件ーー<池田屋事件>。
新選組に主がいる刀剣にとっても重要な日であり、そしてーー彼・加州清光が折れた日でもある。
★★★
まだ、日が出始めたばっかの午前五時頃。本丸内にある修練場には、自身である刀と同じ位の木刀を手にした青年が立っていた。
額に汗を滲ませ、肩で息をする。滴り落ちてくる汗を手の甲で少し荒々しく拭う。
「また、お前が一番乗りかよ……。加州!」
「あれ?同田貫に御手杵じゃん。」
修練場の入り口、大胆に胸元を開けたジャージを着た青年と欠伸を殺そうにも殺せてない長身の緑色のジャージを着た青年が立っていた。
素振りの続きをしようとしていた、一番乗りである加州清光は二振りの姿を認めると、その手を止めた。
「本当にあんた、早いな~。」
「御手杵は眠そうだね。眠いんなら、無理に起きなくても良いんじゃない?アイツは別に怒る訳じゃないし。」
近づいてくる二振りに向かい合い、木刀は左手に持つ。
二振りの手にも、自身と同じ位の木刀や木の槍を持っていた。
「たぬきの奴が、煩くてな~。」
「俺はたぬきじゃねーって!お前は良いじゃねーか、一番に戦に出してくれるんだし。出して貰えねー俺は、朝から鍛錬積んどかなくちゃ、剣が鈍る。」
”一番に戦に出してくれる”。同田貫のその台詞に、微かに木刀を持った左手に力が入る。
「戦に出たいんなら、アイツに直に良いなよ。アイツはお前等を失いたくないから、極力出さないでいるらしいけど。」
「検非違使か……。」
検非違使が現れてから、最小限の出陣で歴史の改変を止めようとする動きが広まった。第三勢力の検非違使が参戦してから時は結構過ぎたが、審神者に色々なトラウマを残していた。
その中に、刀剣の破壊ーー要するに、刀剣が死んでしまう事が各国の審神者に大きな傷を残していた。
彼等の主である、審神者も刀剣達が折れる事は一振りもなかったが、その手前となる重傷を負わせてしまう事態を経験した。
それ以来、刀剣の強さにバラつきを持たせず、だが確実に屠れる様に隊を組むようになった。そして、組まれた隊が山姥切国広が率いる第二部隊だった。