第2章 水無月の五日/文月の八日
何かを考える様に目を伏せる加州。それから二振りに背を向け、左手にある木刀に右手を添える。
同田貫はその仕草を見て、ニヤリと口角を上げる。左手の木刀を右手で持つと、それを背を向けている加州へ振り上げた。
「あ、お前ーー、」
御手杵が同田貫の行動を認めると、止めようと同田貫に声を掛けようとした。だが、その声が届く前に、木と木がぶつかる音が静寂な修練場に広まった。
「後ろから狙うなんて、卑怯じゃない?」
「とか言つつも、ちゃっかり受け止めてるじゃんか!」
振り下ろされた同田貫の木刀は、しっかりと加州の木刀に受け止められている。同田貫かそれとも襲ってくる木刀の気配か、勘づいて木刀を抜刀した。
加州は木刀を払い、同田貫達から距離を取る。
「なあ、加州。」
「何?」
「朝飯までに時間、まだあるよな?」
「たっぷりね。で?」
いつもの戦闘時にする低い姿勢で、木刀に手を掛け加州を見やる。それを見て、何がしたいのか分かった加州も同田貫とはまた変わった構えをする。
「手合わせ、願おうか!!」
★★★
「血の気があるのは良い事だが、主が何とも滑稽な顔をして驚いていたぞ。」
午前七時過ぎ、朝食の時間になった。この時間になると、続々と仲間達が大広間へと朝食を求めて集まってくる。
ぶすっと府て腐る様に同田貫は頬杖をつき、視線を正面から外していた。その目の前には三日月宗近が、優雅な所作で朝食を突っついていた。
同田貫の右隣には加州がおり、左隣には御手杵がいる。
血の気が多いと三日月に言われた同田貫の顔には、幾つもの傷が出来上がっていた。
「うっせーよ、爺さん。」
「まあ、手入れは食べてからしてもらえ。主はーー」
「彼女なら、食べ終わって部屋に戻ったよ。」
爺さんと呼ばれる程、確かに歳は食ってはいるが見た目は青年のそれであり、人間離れした美しさがある。だが、三日月は爺さんと呼ばれても笑っていた。
彼等の話に加わる一振りがいた。
「はよ。安定。」
「おはよ、清光。同田貫、また懲りずに清光と手合わせしたんだってね。」
「うっせーよ……。」
「これ以上は止めてやれよ、もっといじけるからな~コイツ。」
大和守安定が笑いながら、同田貫に向かって話しかけると、更にいじける。御手杵が弄られ始める前に、大和守を止める。が、それは同田貫には逆効果だった。