第2章 水無月の五日/文月の八日
少女は突然の出来事に、体を固くして固まった。
「何、固まってんの?」
「いや、だって!?」
よく顔を見れば、顔が赤くなっている。夜戦に強い刀種である打刀の加州は、その赤さが夜中であろうがはっきりと目に映った。
「だったら、しっかりと自分で拭きなよ。俺に、こんな事されたくないんなら。」
態と拭く強さを強くしてみる。だが、そんなに痛みが起こらないように、手加減をして。
加州の隣にいる主は、強くなったそれに呻き声しかあげれていなかった。顔を赤くしたまま、素直に加州の施しを受けていた。
「そう言えば、加州達、枕投げしてたの?」
「ああ……してたね。長谷部から聞いたの?」
態々、報告しに来てくれた。加州の手が拭くのを止め、離れると今度は自分で髪を乾かし始める。
少しタオルで拭いてから、タオルを膝の上に置く。
「遊ぶの良いけど、程々にしなよ。君等が暴れると本丸が崩壊するから。」
「はいはい。解ってるよ。」
一度、大暴れした短刀達によって、本丸が崩壊しそうになった。人間ではない彼等が暴れてしまえば、簡単に本丸など壊れてしまう。
本丸内では、以降、暴れる事に対しての注意書きが増えた。
「でも、そんな元気があるんなら、良かった~。」
彼女の左隣は、二階を支える柱である。ヘラヘラとした笑みを浮かべると、頭を柱に寄りかからせた。
「元気って……元から、元気ですけど。」
呆れた様に言えば、少女は心底驚いた顔で、「嘘だ……。」と呟いた。何でも顔に出る少女に対して、加州の眉間に皺が寄る。
「だって、去年の今頃なんて、浮かない表情してたじゃん!去年はどうしてそんな顔するのか分かんなかったけど、理由分かったし、今年も浮かない顔するんじゃ……って。」
加州の赤い目が見開く。
「お前な……。」
すぐさま、顔を下に向け、自分の前に垂れた前髪を無造作に掴む。微かにしか見えない口元は、何かを噛み締めている様だった。
少女からだと加州の顔は見えない。どうしたのか、心配になった彼女は彼の顔を覗き込んだ。
次の瞬間だったーー、
「いったい!か、加州……!?」
覗き込んだ少女の腕を引っ張ったかと思えば、彼女の後ろの柱に押さえつけ、顔を少女に近づかせた。
柱に追いやられた少女は、困惑と驚きと掴まれた腕の痛さで目を泳がせる形で見上げる。