第2章 水無月の五日/文月の八日
それに反抗する様に、加州の手をペチペチと叩く。
なんとも面白い顔になっていた少女を見て、加州は声を出して笑った。加州のその反応が癇に障ったのか、加州の腕を少女は殴った。
「なんだよ、変な顔をするアンタが悪い。」
「変な顔にしてるのは、お前だろ!?人の顔を見て笑うとか、最悪だな!」
笑いの衝動が治まった頃、自分の左隣を軽く叩いて少女をそこに座る様に促した。
少女は叩かれる左隣を見ると、一瞬、止まったが「失礼します。」と言って座った。
左側に彼女が腰を下ろすのを認めると、ホッと息を吐く様な安心感が心の中に広がった。
「今日は、皆に絡まれたって?」
「流石、お前の耳にも入ってたんだな。」
どんな事も逐一、報告してくれる仲間がいる。彼女は大体の本丸や皆の様子をそこから知っていた。
少女は必要最低限以外は、外に出ようとしない。自分の部屋にいるのが好きで、引き篭もり化している。
「で、お前は一日、何やってたの?」
「普通に、ゲームして飽きたら寝てーー、」
「報告書は?」
「……今さっきまで、書いてました。」
案の定、あの部屋の中にあった無残に置かれた書類が、今頃に手をつけている事に、沸々と怒りが沸き上がっていた。
「お前は!!重要な事は早めに終わらせろよ!?」
「痛い!痛いっす!!加州。」
こめかみを、これでもかという位の力で片手で両側を抑えられ、あまりの痛さにまた加州の手を叩く。
だから、こんな時間まで起きているのか。髪が半乾きのまま首にタオルをぶら下げ、見るからに湯上りですといった姿をしている。
今、午後11時半頃。大体が眠りについている。となると、加州と同室にいる新選組刀も眠りについたのだろうか。
「たくっ…しっかりと、髪を乾かしなよ。風邪、ひくぞ。」
直ぐ隣なものだから、手を伸ばせば触れる。少女の肩に掛けられたタオルに手を伸ばす。手にしたタオルで、少女の濡れた髪を無造作に拭き始めた。