第2章 水無月の五日/文月の八日
数秒の間、変な沈黙が一人と一振りを包む。
突然の出来事に、少女は恐怖を感じてもいた。だが、目の前にいる初期刀の顔を見て、釘付けになった。
「……んで……何で、お前はそういうの、感づくかな……?」
今にも泣きそうな顔。目尻は下がり、眉は八の字になり、眉間には皺が寄っていた。だが、その皺は不機嫌で出来たものでは無い。
「文句はある。……でも、それが言えるのは当時の俺だって解ってる!文句が言える俺は、あの時に死んだ。ここにいるのは記憶が生み出した”加州清光”だって、解ってる!!」
吐き捨てるかの様に、夜中であるが大声で少女に向かって叫んだ。少女は唐突に始まった加州の話に驚きつつも黙って聞いていた。
「理解はしてる。でも、未練が無い訳でもない。……自分が死んだ日に、平然となんてしていられるなんて出来る訳ないだろ。俺は、そこまで強くない……。」
くしゃりとした笑顔を見せ、自分の頭をいつかの時みたいに少女の肩に置いた。その際に、拘束していた少女の手首を離して自由にする。
(何で、こんな事、暴露してるんだろ。しかも唐突に言い始めたし、馬鹿じゃん俺。)
しかも八つ当たりぽい、し。小さく自虐気味に笑うと、頭に変な感触が広がった。
ポンポン。少女は加州の艶のある黒髪を、子供をあやす様に叩いていた。
「なっ!?」
「やっと、吐き出してくれた。」
「はあ?」
少女は、はにかんだ様な笑顔を加州に向けた。
「加州てさ、いつも嫌味とか貶す言葉とか言う癖して、自分の本音ってさあんまり言わないよね。ウチさ、始めの時以外で聞いてないよ。」
少女が審神者となって、加州が初期刀となった初めての頃は、お互いが始めての経験過ぎて本音が出る事が多かった。
慣れ始めた途端、本音は徐々に少なくなり、言わなくなったような気がした。
「君よりも歳なんて全然、離れてるけど、もっと本音をぶつけてよ。君が思ってる事をぶつけてよ。」
「いや、結構、ぶつけてるけど。」
「うん……まあ、そうですね。」
アハハはと言いながら、頬を人差し指で掻く。気を取り直して、加州の赤い目を真っ直ぐに見つめる。
「ウチだってさ、加州にいつもお世話になっているから、何かしたいんだよ!余計なお世話かもしんないけど。」
だから、近侍を外した。少女の黒い瞳は真剣そのものだった。その瞳に引き込まれる。