第2章 水無月の五日/文月の八日
★★★
(俺は今日、何をしてしまったんだろう…。)
今剣と前田とのお出かけを終えた後、帰ってくるなり色々な刀剣達に絡まれていた。それは現在進行形で、今も続いている。
「加州、一緒に茶でも飲まないか?」
「はあ……。」
余りの事に、加州の顔には疲れが見えていた。目の前の相手ーー買い出しを頼んだ張本刀である鶯丸を見やる。
「今剣と前田が自慢げに、加州と出かけて選んで来た。というからな、お前と飲みたくなった。」
「いや、三日月や小狐とかと一緒に飲めば良いのに。後、髭切とか膝丸とか。」
昼食が終わって、一段落したと思えばこれだ。まだ、昼食の親子丼がお腹に残っている。
よく、鶯丸が一緒にお茶を飲んでいる通称、お茶仲間の名前をあげていく。若干、一振りは巻き込まれているだけだが。
「今日はお前と飲みたい。駄目か?」
そう言われてしまうと、断れない。縁側で座っている鶯丸の横に腰を下ろし、湯呑を受け取る。
淹れたてなのか、湯呑の底とお茶が入っている側面がやけに熱い。
「今日は皆、お前の事を構うな。」
「他刀事みたいに…。鶯丸もその当事者だよ!」
自分だって仲間と同じ様に、自分を構ってくる。そう言うと、クスッと笑って湯呑のお茶を口に入れる。
「いや、お前だけではないな。大和守や堀川、和泉守や長曾根も絡まれていたな。」
鶯丸曰く、贋作である長曾根虎徹に、苦手意識がある蜂須賀虎徹まで彼に絡みに行っていたらしい。
その時の顔は苦虫を噛み潰したようであったが、絡まれた本人は嬉しそうに笑っていたらしい。
「あっそ。」
加州も湯呑のお茶を飲みこむ。程よい温かさが、喉を通っていく。
「まあ、少しは紛れるだろう。」
「何が?」
主語がない言葉に、聞き返す。
「自分がよく解っているんじゃないか?」
微笑むように薄緑色の目を細くする。お茶請けとして、午前中に加州が今剣と前田と一緒に買いに行った、菊の花が描かれたゼリーを食べる。
「主が、お前を暇にしたのも分かる。」
「はあ、何でアイツが出てくるの?」
鶯丸にゼリーを食べる様に促されながら、少女の話が出てきた。加州が近侍でない、本丸中に広がるのは別に不思議ではない。だが、何故、少女の事が出てくる。