第2章 水無月の五日/文月の八日
「おいしい~!」
「美味しいですね。」
「これなら、合うかもね。そんなに、甘ったるくないし。」
店員に進められるままに、他の甘味も試食していく。色々食べていく中で、加州達は菊の模様が描かれた寒天のゼリーを選んだ。
渡されていたお金の中の範囲にもしっかりと収まった。
「ありがとうございます!加州。」
「感謝いたします、加州さん。」
店を出た帰る道の道中、今剣と前田がそれぞれ加州に頭を下げる。加州はその姿を微笑ましく思い、笑顔をほころばせた。
「良いんだよ。俺も暇だったし、良い気分転換になった。あ、そうだ、コレ。」
開いている片方の手で、思い出したかのように何かを探す。探っていた手が目当ての物を見つける。
取り出された手の上には、二つの小さな袋が置かれた。中を見ると、色取り取りの金平糖であった。
「二振りにあげる。」
さっきまで滞在していたお店で、手の上にある金平糖を見つけた。こっそり二振りに見つからずに買っておいたのだ。
「え、良いんですか?」
「わーい!!」
前田は戸惑いながら顔を嬉しそうに赤くし、今剣は人が行きかう中だというのに、飛び跳ねていた。
「一期さんや他の藤四郎には内緒。俺達だけの秘密。」
ね?前田は兄である一期一振に、秘密にする事を躊躇する事がある。大好きで尊敬している兄に隠し事はしたくないのは刀も同じ。
そうは言ってても、帰ったら前田は兄に言うのだろう。そして、何かお礼をと、また何かを貰うのだろか…と考えが巡らされた。
「はい!」
大事そうに受け取ると、それをショルダーバックの中に仕舞った。
本当に良い気分転換になった。あのまま、部屋の中にいる事になったら、ずっとあの事を考えていなくてはならなかったから。
「加州!ほかのおみせも、みにいきませんか?」
「何か買いたいのがあるの?」
「ないです!」
「ないのかよ!?」
呆れた様に笑いながら、今剣に腕を引っ張られる。
今日は”加州清光”が折れた日。一般的には池田屋事件が起こった旧暦での月日ではある。
だが、当事者であった加州、並びにそこへ遭遇していた刀剣達にとっては、複雑な心境がまみえる”今日”という日であった。