第2章 水無月の五日/文月の八日
お茶菓子なら、加州よりも適した刀が沢山いるではないか。そう思った加州は口を開いた。
「倶利伽羅にお茶菓子を作って欲しいって、頼めば良いじゃん。それか、安定。アイツも同じで甘いの好きだし、俺よりもそういうの知ってるよ?」
何で、俺?そういう思いも含めて、今剣と前田に言うと二振りして互いに顔を見合わせた。
「倶利伽羅さんは、今日はお菓子を作らないそうです。大和守さんは他の事で手が一杯らしく。」
「加州とおでかけしたいんです!ひさしぶりに。」
今剣と前田はこの本丸に二番目と三番目に来た。四番目が来るまでは、審神者である少女と加州と一人と三振りでこの大きな屋敷で過ごしていた。
仲間との絆や昔ながらの顔馴染みとの関係があるし、大切だ。だが、この二振りとは初期から一緒にいる為、安定とは違った兄弟みたいな関係であった。
「分かった。直ぐに準備するから、玄関に先に行ってて。」
笑顔で承諾すると、二振りは目を大きく光らせて嬉しそうに口角を上げた。
さきにいってます!今剣の声を聞いて、加州は出かける準備に取り掛かった。
今日はまだ始まったばかりだ。
加州の脳裏にある光景が映し出される。孤軍奮闘していた自分を握った人物。血飛沫と共に、鉄が飛ぶ。そしてーー、
「分かってるのに……。」
手で顔を覆い、顔を歪ませる。ああ、痛い。
★★★
「これなんてどうですか?」
「色合いがとても綺麗ですね。加州さんはどう思いますか?」
「うん。色が綺麗だし、美味しそう。値段も手頃だし。」
本丸を出て、山城国内の町へ足を運んだ。前田曰く、お茶が好きな最年長の鶯丸から、お金を貰っているらしい。
町の中には、色々なお店がある。全てを扱う万代屋はあるが、基本的に何かを買う時は、それぞれが専門として扱っているお店の方が品揃えがある。
「良かったら、試食いたしますか?」
訪れていたのは、お茶とそれに合うお茶菓子を扱う専門店。茶葉は予め、お金と一緒に達筆なメモが渡され、そこに書かれた物を選んだ。
後は、その茶葉に合うお茶菓子を選ぶだけだ。
和菓子や洋菓子を三振りで見ていれば、店員である若い女性に試食の提案を受けた。
「食べてみる?」
加州は二振りに、試食するか聞いてみた。二振り共、顔をほころばせ頷いた。
小さく切られた甘味を、楊枝で刺して食べる。