第2章 水無月の五日/文月の八日
『は?』
余りにも唐突な発言に、聞き返してしまう。少女は『え?』と、こちらも聞き返していた。
少女は審神者だ。という事は、刀剣である加州の今の主である。
戦いも知らぬ時代に生きていた少女は、適性があった。只、それだけで、常に死と隣り合わせとなる世界へ来てしまった。
その世界で一番初めに仲間になったのが、加州だった。少女にとって最初で最後の、自分の意志で選んだ刀である。
只、彼は一般的な”加州清光”とは違っている為、少女とは衝突がしばしば見受けられた。だが、その分、強い絆が生まれていた。
少女が審神者になってから、殆ど近侍として隣にいたのは加州であった。
度々、変える事はあったが、まさか今日は変えられるとは思ってもいなかった。今日も当たり前に近侍をしようと思っていた。
『……分かった。』
コツンと壁に頭を当てる。軽く打っただけでも、頭に微かに痛みが広がる。
「いった……。」
それは頭なのか、それともーー。加州は痛いのは何なのか分かっていたが、敢えて分からないフリをした。
「加州!いますか?」
今日は何をしようか。急に暇になった事で、どうしようか考えれない頭で、無理やり考えていた時だった。
「加州さん。」
日の光が零れる障子の向こうに、小さな人影が二つ立っていた。そのシルエットと変声期前の聞き覚えのある少年の声に、顔を向けた。
「今剣に前田?」
「はい!はいってもいいですか?」
加州の問いに肯定するかのように、小さな人影は元気よく手を上げる。
部屋に上がりたい。その願いに応える為、障子の扉を開けた。
「二振りして、どうしたの?」
「突然、押しかけて申し訳ありません。」
「加州はきょうはひまですか?ひまですよね?」
突然の今剣の質問に、素っ頓狂な声が口から洩れる。隣にいた前田藤四郎は唐突に聞き始めた今剣に、驚きの顔を見せていた。
「暇…だけど。」
「なら、ぼくらとおでかけしませんか?」
「はあ?」
どうしてそんな事を言い始めたのか、前田に助けを込めた赤い瞳を向ける。
「僕等、鶯丸さんに御遣いを頼まれたんです。お茶とそれに合うお茶菓子を買ってきて欲しいと。」
「加州はあまいもの、すきでしたよね!だから、ついてきてほしいんです!!」
要するに、お菓子を探すのが上手いから、一緒に探して欲しいという事だ。