第2章 水無月の五日/文月の八日
「で、アイツは部屋に戻ったの?」
「うん。戻った。」
「さっきまでは、ここで朝餉を食していたんだがな。なんとも食べるのが早い主だ。」
頂きます。手を合わせて大和守も朝食を食べ始める。彼は今日の朝食係をやっていた。
加州達は朝食を食べる順では、終わりの方であった。
早めに朝食を食べようとしていたが、思いの外白熱しすぎて終わりの方になってしまった。
因みに、御手杵は少ししか参戦していない。これ以上深入りすれば、とんでもない事になると第六感が働いた為、軽傷で済んでいる。
「あ、清光の事呼んでたよ。って言っても、食べ終わったら来て欲しいって言伝を頼まれたけど。」
「俺の事?……あ~あ、うん。了解。」
誰が?一瞬、大和守の言葉に思考を巡らせたが、呼んでいる当の本人が誰なのか直ぐに分かった。
承諾すると、大和守は可笑しそうに笑ってた。
「何、笑ってんだよ。」
「いや~。誰って言わなくても、誰なのか分かるのが可笑しくって。」
「そりゃ、お前とは結構な付き合いだし?同じ主の元にいて、今もいて、意思疎通が出来るのは可笑しくないでしょ。」
「そうじゃなくて、その誰かっていうのが、兼定だったり曽根さんだったりするのにね。」
「え、そっち!?」
自分が思った相手ではなくて、思わず箸で挟んでいた焼き鮭を皿の上に落とす。それを見て、更に大和守は笑う。
「合ってるよ!お前が考えている相手で、合ってる。」
「なんだよ……。」
(本当に無自覚ぽいな~。)
大和守は、安心してまた箸で挟んだ鮭を頬張る加州を見て、微笑んだ。
食事の時間は気が付けば終わりを迎え、加州は彼等と別れ、自分を呼んでいる相手がいる部屋へと足を運んでいた。
「入るよ。」
部屋の前に着くと、障子の扉が閉められていた。部屋の中では人の話し声が聞こえる。
「ありゃ、加州?良いよ、入って。」
扉に手を掛け、開けると一人の少女がスマホで遊んでいた。加州が聞いた声は、その際に発せられた彼女の大きな独り言である。
加州にとってはそんな事は日常になっていた為、またか、とだけしか思っていなかった。
「お前の声、扉の向こうでも聞こえる。」
「ご、ごめん…。でもね、コレはどうしても面白いから声に出して笑っちゃうんだよ!」
仮にも男の前だというのに、無防備に横になっている少女に呆れしかない。