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[鬼徹]鬼神が愛した100の理由[R-15]

第2章 ひとつめ『嘘が下手な所』


驚いた人達は煙の外へと飛び出し、中央に居る私達へと注意を向ける。
本人である私は既に手に触れた感触に胸を高鳴らせ、白澤は少し咳き込んでいた。


「ちょ、待って待って待って!? これってどういうこと?」

「ああっ! 私の目に狂いはなかったあ」


― モフモフモフモフモフ……

首に手を回し、首元の毛に顔を埋めて厚い被毛を堪能し始めた。
白澤は蹄をカツカツ鳴らし、己の意思とは違った変化に戸惑っている様子だった。


「キミ何者っ? 僕に何したの? あれ、あれ……戻れないんだけど」

「……」


そんなことなどすでにどうでもよく、このゆったりした被毛が本当に心地よくてヨダレが垂れてしまいそうなくらいだった。
ウットリしたまま、神獣と視線をかろうじて合わせた。
彼の質問には答えられなくて、ただただ満喫する。


「……この姿なら一緒に遊んでくれる?」

「これだったら私がお願いしたいくらいだよ」


少し驚いた顔をしたようだが、すぐに微笑んで身を屈める。
低く座り込んだので、手を離さざるを得なかったが、背中の上や頭が良く見えるのでそれもまた良い。


「ふふ、ネムちゃんって変わってるね」

「そうかな。でもそれでもいいや~、白澤さんって素敵だから」


もっしゃもっしゃと撫でまくってやる。
白澤は抵抗しないし、周囲もややざわついてはいるものの特別動きもなく気にならなかった。

屈み込んだ白澤は私を見上げた。


「さあ、乗ってよ。僕の店へ招待するからさ」

「何のお店?」

「漢方薬屋さん」


語尾にハートマークが付きそうなくらい好意的な声色でニッコリ答える。
私はもうこの大型獣に骨抜きで、どうにでもなれと思っていた。


「いいよ~、行こう行こう」


気軽に答え、物怖じもせずにその大きな背中に跨った。
背中には小振りながらも背骨に沿って角があり、側面の横腹には目が在ったので傷つけたり、傷ついたりしないように気を付けながら座った。何処を掴むべきかよくわからないが、このたっぷりとある被毛を掴んで前屈姿勢をとる。

まるで『○と○○』の白龍に乗る少女のような気持ちをリアル体験、実に幸福である。


「しっかり掴まっててね」

「うんっ」


ふわりと重力を無視して浮遊し、周囲の鬼や野干のざわつきから離れてゆく。


「どこまで行くの?」

「桃源郷だよお」
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