第2章 ひとつめ『嘘が下手な所』
「うーん、これじゃ君を脱がせられないよ。戻してくれない? こう見えて僕って結構テクニシャンなんだよ~」
「そんなにあの姿がいいの?」
桃源郷のにある極楽満月の看板を掲げた薬局店。
白澤の自室、更にその寝台の上で大きな身体を私の上に乗せ、潰さぬように配慮しながらモフモフ地獄か天国か、天然神獣布団として堪能させてもらっていた。
部屋はそれほど広くないのでこの巨体が入るとかなり狭く感じるし、寝台は今にも崩れてしまいそうな音を時折立てる。
そんな事を気にしていては大型動物を満喫なんて出来ない。
私は骨の1本や2本、どうにかなっても構わないつもりでこの巨体の下にもぐりこんだのだ。
けれど、この獣は人型なんぞに戻りたいと願っているようで、心の底から残念に思った。
「そんなに戻りたい?」
胸元の被毛に顔をすっかりと埋めたまま、くぐもる声で白澤に問うた。
少しの思惟による間が空いたが、白澤は首を私の頭に寄せて答える。
「出来ればその方が都合がいいかな~」
モゾモゾと被毛から抜け出て、ベッドに座って白澤の顔を抱く。
抵抗しないその頭には額に金色がキラキラとした目が在った。
クチをそこへ寄せるとその目は閉じ、その瞼へとキスを落とした。
すると神獣の姿に変化したときより控えめな煙量でボフンと白い煙に部屋が満たされる。
煙が自然に消えるとそこにはやや乱れた髪と服で座る私と、ウキウキとした楽しそうな表情の男が寝台の上で向き合っていた。
「ふふ、さあそれじゃあ」
白澤の手が私の着物の襟元へ手を伸ばすが、人型では興味がない。
パシッとその手を払い、寝台から降りる。
乱れた着物を手早く整え、サードテーブルに置いた髪飾りの入った紙袋を手にしようとするとその手首を掴まれた。
「って、これからじゃん。どこ行くのさ~」
ヘラヘラした顔も獣であれば愛らしいのだけれど、人型の男だと思うとここまで差異があるのか。
表情が良くわかる分、下卑た脳内を行動に移されるのだろうという不安が脳裏をよぎる。
それに思ったよりしっかりと握られており、かなり強めに引かねば振り解けないだろう。