第2章 ひとつめ『嘘が下手な所』
「ねえねえ、ネムちゃんって角がないけど天女か何か?」
ここで角のない女は大抵が狐だが、この白澤という男はどうも私を口説いているようだ。
それほど悪い気はしないが、歯の浮くような見え透いたお世辞がいくつも出てくる。
気付けばごく自然に私の腰を抱き、ベタベタと馴れ馴れしい。
彼の香水だろうか? 薬草のような匂いがするけれど、フルーティな甘い香りが強く、とても良い香りだ。
欲しかったものを成り行きや好意だとしても貰ってしまった負い目もあり、無碍に出来ない。
嫌なら付き返してしまえばいいのだけれども、手放したくない気持ちも強く、適当に軽食でも奢ってこの気負いを払拭しようかと思案しながら言葉を返していた。
「天女や狐じゃないし、この街の人間じゃないよ」
「へー、そうなんだ。あんまり綺麗だから勘違いしちゃった、ごめんね? それより、この後、何か予定とかあるの?」
「んー、帰るだけ……かな。 あ、これありがとうございます、お礼はまた近々」
「気にしないでいいよぉ~、僕がネムちゃんに似合うと思って勝手にした事だからさ」
「そう言ってくれるんだったら、ありがたく」
色々と考えたけれど、そう言うならと後のことは考えるのを止めた。
白澤を見ると目線が合い、微笑を向けるので反射的に微笑み返した。
「ねえ、僕と遊ばない?」
唐突に明確な目的を察する事のできる質問に私の顔から微笑が消える。
実のところ、私は既に入籍しているので男遊びはしないようにしている。
けれどこの白澤という男を良く見るとどうもモフモフした気配を感じ、そこも無碍に出来ない理由の1つである。
立ち止まって白澤を観察するようにジロジロと全身を見る。
私はよく見ないと相手の本当の姿が見えないのだが、逆を返せばじっくり見ることさえ出来れば色々と予期せぬものまで知ることが出来る便利でトラウマ的な能力を持っている。
旦那に言わせれば『嘘はつけないけど黙っててもほぼ正確に伝わるのでラク』だそうな。
それは伝えたい事を強く念じてもらわないと伝わらないんだけどね。