第2章 ひとつめ『嘘が下手な所』
「へ? ちょ、なに」
「おじさん、これちょーだい」
「へい、毎度!」
予想だにしておらず、髪飾りを失った手が空を迷う。
言葉らしい言葉も思いつかず、声も出ず、口も閉じきらず、男と店主のやり取りをおろおろと見守るしか出来ずにいた。
そうこうしている間に、店主は手際よく髪飾りを包み、小箱へと丁寧に入れて紙のこじんまりとした手提げへと仕舞ってしまう。
ああ、折角、私が買おうと思っていたのに。
でも仕方がないか、勝手に取り上げるなんて酷いけれど、私が考え込み過ぎたのがいけなかったのだろう。
どの世も弱肉強食、ここで騒いだってどうになるものでもない、見たところあれ1つ限りだったようだし、どれもほぼ現品限りらしい。
諦め、この図々しい男が支払っている間にさっさと逃げてしまおうと身を翻した。
「あ、どこいくの。ちょっと待ってよ~」
さっさとしたのは男の方だった。
肩を掴まれて立ち止まり、怪訝な表情で男を見ると、男はなんと買ったばかりの紙袋を私に差し出した。
「はい! これ、欲しかったんでしょう? お近づきの印にプレゼントしちゃう」
「そんな。貰えないよ」
「いいからいいから」
半ば強引に紙袋を押し付けられたが、そこまでいうならと受け取ってしまう。
ああ、悩んだ分だけ、1度でも諦めた分だけなんだか割り増しで嬉しい。
ホクホクとした気持ちで紙袋を胸に抱き、男を見て軽くお辞儀をした。
「なんだか、すいません。大事にします。 私、ネムって言います」
「僕は白澤、よろしくね」
この様子だとどうも完全に初対面同士だったようだ。
まさかこんな気軽に声をかけてくる初対面がいるなど思いもしなかったけれど、ここは花街、想定すべきだっただろうか。
まあ良い。と、自分を納得させて「じゃあ」と帰ろうと帰路へと足を戻したが、男は横をニコニコしながら着いてきた。