第2章 ひとつめ『嘘が下手な所』
此処は衆合地獄にある花街。
私は鬼灯から頼まれ、お香に書類の束を渡しに行った帰りだった。
この街は美しい男女が多く、また、新しい飲食店などもよく立ち並ぶので興味をそそられる。
真っ直ぐ帰るつもりが、店先に並ぶ髪飾りに気を取られてしまいつい立ち止まった。
華やかで美しく、煌びやかな髪飾りたち。
あまり華美すぎる物は苦手だが、見るのは好き。
「やあ。何か欲しいの?キミだったら可愛いからなんでも似合うと思うな~」
前屈姿勢でじっくりと見ていると、白い中華風の服に白衣を纏った背の高い男性がひょいと身をかがめ、声をかけてきた。
その声に振り返ると視線が合い、自分に話しかけているのだと確信する。
彼は右耳に赤い耳飾をしており、黒髪で頭に白い頭巾を被っていた。
目元はぐっと釣りあがったツリ目で、口元には微笑が見える。
声色はやや高く、全体的な雰囲気は人好きしそうな印象を受けた。
けれどその男性に見覚えはなく、私は自分の頬に手を宛てて首を傾げた。
「私? ……誰だろう、会った事あったかな。ごめんね、覚えてないや。でも、ありがとう。参考にするよ」
下手な謙遜や言い訳をせずに軽い謝罪をしてすぐさま品物へと視線を戻した。
品台の中腹にあった髪飾りを手に取る。
繊細な作りこみが魅力的な彼岸花の髪飾りは、花弁から向こうがうっすらと透けて見える。
真紅の色が黒い芯と相まって特に繊細そうに私の目に映る。
ついていた値札を見やると、やや高価ではあったが手持ちで十分に購入できそうだったが『(こんな繊細なものを買って壊してしまったりしないだろうか?)』と、頭をぐるぐる悪い想像とそれを褒められる良い想像の自分が浮かんでは消え、また同じ考えが浮かぶ。
真剣に悩んでいる内に、横で立っていた男の事など念頭から掻き消え、すっかり目の前の髪飾りの事でいっぱいとなった。
そんな様子を見て男はクスクスと笑って、私からひょいと髪飾りを事も無げに取り上げてしまう。