第11章 月のゆりかご/上杉謙信(謙信side)
薄く笑い、涙する愛香
「何故、泣く?」
「わかりません……」
愛香の泣き顔が見たかったわけではない。
笑った顔がみたいだけなのに……
「泣くな……」
「っ……」
触れてはいけないと思うのに触れてしまいたくなる。
まるで、刀を振り下ろすのと同じ感覚で無意識に涙の跡に唇を寄せてしまっていた。
「お前は不思議な女だ」
「え?」
「俺の心をかき乱す」
忘れようとしていた感情が溢れだしてくる。
止めようとしても止めようが無い。
息苦しい__
認めてしまえば楽になるのか?
触れ合えば分かるのであろうか
愛香に対する気持ちが……
「あっ……」
訳もわからない息苦しさから、解放されたくて愛香を押し倒してしまっていた。
真っ直ぐに俺を見つめてくる瞳は、熱を帯びている。
俺は、うつけではない。
その瞳の意味する事を知っている。
愛香ならば、こんな俺を受け入れてくれるのだろうか?
もう一度、愛する喜びを俺に与えてくれるのだろうか。
指を絡めて力を込める。
痛みからか、眉をひそめるが
振り解こうとはしない。
「この手を振りほどかなくていいのか?」
黙って頷く愛香の頬は、薄紅色に染まり微笑む。まるで菩薩のようだ。
暖かく俺を包み込み、息苦しさがとけていく気がする。
この笑顔だ
俺が欲しかった笑顔
もやもやとしていた息苦しさが、いつの間にか消えていき愛香への熱い想いが高まっていく
仕方あるまい
認めてやろう
俺は、愛香に恋い焦がれている