第11章 月のゆりかご/上杉謙信(謙信side)
俺には忘れられない女が1人だけいた。
否、もう忘れたのかも知れない
顔も声も思いだせぬ。
想いが通じ合っていたと思っていたのは、俺だけだったのだろうか?
ある日、突然
女は俺の元を去っていった。
理由は、未だにわからん。
生きているのか、死んでいるのか__
ただ、俺の前から去る前に
「私では貴方の心を溶かす事は出来ない。貴方の傍にいたら私は壊れてしまう」
そう嘆いていたのだけは、覚えている。
あの女が何を思い悩んでいたのか
俺には理解出来ない
ただ突然、人はいなくなる__
いなくなって、寂しくなるのであれば
愛さない方が良い
愛さなければ失う哀しみも味わう事もない
なのに、何故?
俺は、愛香に触れてしまっているのだ?
何故、退屈だからといって愛香を俺の元へと呼んだのだ?
あの笑顔が見たいと思ったのだろう……
じりじりと胸の奥に痛みがはしる。
「笑って……」
頬に添えた手に愛香の手が重ねられた途端に、ふと蘇る感覚
温かいぬくもり
何故こんなにも胸が高鳴るのだ?
久しく味わった事のない感覚だ
「ふっ……」
自然に頬が緩んでしまうな