第8章 「さん」付けの代償/徳川家康(家康side)
「えっと……あ、あのっ! 政宗にっ」
「ふーん……政宗さんのことは政宗って言うんだ」
「あ……!」
「俺、前に言ったよね?」
「……はい」
「さん付けは止めてって」
愛香と結ばれてから日は浅いけど__
結ばれた日の夜に俺は言ったんだ
「家康って呼ぶように」
その時の愛香の顔は今でも忘れられない。頬を染め照れ笑いしながら、遠慮がちに
「家康……」
そう呼んでくれた事が__
俺がどれだけ嬉しかったか
愛香には分かってなかったんだ
自分だけ喜んでいたなんてバカみたいじゃないか
だから、俺は余計に冷たい態度を取ってしまうんだ。
「別に気にしないけど」
「なーんだ?やきもちか? 見苦しいぞ」
「政宗さんは関係ないでしょ
……妬いてないし」
「ほう?」
政宗さんにだけは言われたくない。
俺と愛香の関係を知っているくせに
愛香にチョッカイをだすんだから
政宗から視線を逸らそうと顔をそむけると、
わざわざ俺の顔を覗き込んでニヤリと笑う
迷惑、やめてくんない?
イライラが爆発しそうで俺は、愛香に八つ当たりの言葉を残して台所を出ていった。
「あんたは、政宗さんと仲良くしてれば」
俺、みっともない__
分かっているだけに余計に苛つく。