第38章 俺様に薬を飲ませるための代償/織田信長
「そうだ」
「何ですか?」
「これを……信長様に飲ませてくれ」
懐から取り出したのは三角に包まれた紙
「これは?」
「薬だ」
「薬……ですか?」
「いいか? よく聞け」
真面目な顔の光秀さんに圧倒されてしまいそう。
「御館様が病で倒れたとあっては非常にまずい」
「? どうしてですか?」
「愛香は事の重大さに気付いていないようだな」
蔑むように笑わないでよ
(まあ、光秀さんはいつもそんな感じだけどさ)
「信長様に敵が多いのは知っているな?」
「はい」
「信長様は病に倒れたと噂になったら……」
「あ……」
「いくら頭の弱い愛香でも分かるだろ?」
(頭の弱いは余計ですよ)
「この城にも間者が出入りしている。秀吉にバレたら大騒ぎになるだろ?」
「ですね」
「だからだ__秘密裏に信長様に薬を盛れ」
お願いだから普通に薬を飲ませろって言ってよ
すぐにそうやって誤解を招くような言い方をするんだから
「光秀さん……言葉が間違っていますよ」
「ん? すまないな。
つい、本音が漏れたようだ」
愉快そうに笑ってみせる光秀さんに、私は顔を引きつらせて笑うしかなかった。