第34章 一夜の幻/顕如
昨日と同じように壁に向かって念仏を唱えている顕如
でも、昨日と違う事が1つあった。
それは食事
昨日、持っていった食事が綺麗に食べてある。
嬉しい__
たったそれだけの事なんだけど、嬉しくてしかたがない。
「食べてくれたんですね……ありがとうございます」
「お嬢さんが礼を言うことではあるまい」
「でも嬉しいんです」
あのまま食事を取らずに死んでしまうをじゃないかと思っていた愛香は、嬉しく微笑を隠せない。
それと同時に涙が頬を伝っていく
「何故……泣く?」
「わかりません……ただ……」
「ただ?」
「顕如さんには生きていて欲しい……」
「何故、そう思う?」
何故__そう問いかけてきた顕如の顔は、苦しんでいるかのようで胸が詰まってしまう。
その苦しみからあなたを解き放ってあげたい
私は、顕如さんのすべてを知っているわけじゃない。
でも、本当は心根が優しい人だって分かっている。
顕如の隣りに座り、手を握る。
冷たいけど、以前はきっと温かったはず
「顕如さんが幸せに笑う顔が見たいんです」
「ふっ……それは無理というものだ」
諦めたように笑う顕如はとても儚げで、ぎゅっと力を入れて握りしめていないと消えてしまいそう。
「俺はな……お嬢さん」
「はい……」
「信長への復讐を誓って何人もの命を奪った。
同胞の命も、見も知らぬ人間の命も__
そんな俺には幸せに生きる道なぞ無い。
ただ、残された時間をせめて念仏を唱える事で奪った命に報いたいだけだ」