第34章 一夜の幻/顕如
あの出逢いが無かったら俺は、未だに出口のない修羅の道を歩んでいたのだろうな。
俺1人が修羅の道を歩むのであればそれは問題ない。
が、実際には他人の命までも道連れにする事になる。
そんな簡単な事に愛香が気付かせてくれた。
視界の端に映るお粥
湯気がたってお米独特の甘い香りが顕如の鼻をくすぐっていく。
ここに捕らえられてからは、命を永らえるつもりは無く、かといって自害する気もなく
自然に任せて日々、志半ばに散った同胞や無駄に命を落とした者たちの供養のために念仏を唱えて過ごそうとしていた。
食事をする事なく__
そう思っていたのだが、愛香が持ってきてくれたお粥を手に取ってしまっていた。
お腹が減って食べたい衝動があるわけではないが、せっかく作ってくれたのだから一口でも__
そんな思いから一口だけ口に含んでみると
顕如の瞳から一筋の涙が伝ってきた。
生きて__
愛香の声がしたような気がした。
優しく、温かいお粥が冷たく凍りついた彼の心をとかしていくかのように
「っ……赦されるわけなどないのにな」