第34章 一夜の幻/顕如
愛香が地下牢から出ていく音を耳にすると、微かに胸に寂しさを覚えてしまう自分に戸惑う。
地下牢に閉じ込められてから数日
久しぶりに会話らしい会話をした。
それが妙に心が温まる気がしてしまう。
「……鬼に徹する事が出来なかったせいか?」
己の中にある人間臭さに鼻で笑ってしまう。
人としての自分を捨て、鬼となり信長への復讐をすると決めていた顕如
それが1人の女性と出逢ってしまって大きく歯車が狂ってしまった。
愛香のせいではない。
すべては弱い自分のせい__
復讐鬼として人生を全うし、地獄に堕ちる覚悟をして信長へに復讐を誓った。
が、山賊に襲われていた愛香を助けたあの日から、顕如の中で何かが変わった
あの時__
山賊に絡まれている女を見かけた顕如
いつもは捨ておくのだが、見知った顔の女
信長の愛妾とされている愛香という女だな
山賊に捕まったら、身体を汚されどこかに売られてしまうのが運命
そうなったらあの魔王も人並みに哀しむのだろうか?
ふと、そんな考えがよぎるが
「助けてー! だれかぁー!!」
必死になって助けを求める愛香の声を聞いていると、無意識に助けてしまった。
「ありがとうございます。顕如さん」
「俺が誰だか知って礼を述べるのか?」
「はい、あなたは顕如さん……ですよね?」
「如何にも……」