第29章 本気で惚れてるからこそ/豊臣秀吉(秀吉side)
「……そんなんじゃない? どういう意味だ?」
怪訝そうに眉にしわを寄せて俺を見てくる光秀
お前になんか喋ったら面白がってバカにするのは目に見えてる
言うわけないだろ。
「……ほう」
「んだよ?」
「女殺しの秀吉ともあろう者が小娘ひとり、手をだせないとは……面白い」
「な、何を言って!!」
「図星か……」
薄笑いを浮かべている光秀にこれ以上喋ったら墓穴を掘るだけだ。
そうだ。
俺ともあろう男が愛香を抱く事が出来ないでいる。
自慢じゃないが、今までにいろんな女を抱いた。
勿論、その時は本気で好いていた女たちだ。
何の迷いもなく女を快楽へと導いていた俺だが……
愛香を簡単に抱けないでいる。
初めて言葉で想いを伝えあった夜
__愛香を抱くつもりでいた。
甘い口付けを交わしあったあと
「秀吉が初めての人で良かった……」
小さな声で呟く愛香
あいつは俺に聞こえないと思って呟いたんだろうが、俺には聞こえちまった。
それを聞いた瞬間、何故か抱けなかった。
本気で愛香に惚れている。
愛おしくて胸が焦がれるような想いをした女は、愛香が初めてだ。
だからこそ、簡単に抱けない。
戦に出れば何が起こるか、わからない。
信長様のためなら死など問わない覚悟で臨んでいる俺だ。
そんな俺に抱かれてしまっては愛香が可哀想な気がしてならない。