第16章 叶わぬ想い/豊臣秀吉
愛香が振り返ったと同時に野犬が飛び掛ってきたが、間一髪の所で秀吉が野犬をはね除け、愛香を守った。
「……っ」
「秀吉?! 大丈夫?!」
「……ん?あぁ……大丈夫だ」
愛香を安心させるように頭を撫でるが、その腕から血が滴り落ちる。
野犬をはね除けた際、爪が秀吉の腕を深く傷つけたようである。
「血が……」
青ざめていく愛香に心配をかけないように柔らかく微笑む秀吉であったが、愛香は自分の着物の裾を破き傷口にそっと巻き付けた。
「痛いよね? 大丈夫?」
「これくらいの傷なんて大した事ない。
それよりも愛香……お前は大丈夫だったか?
怪我はないか?」
「私は大丈夫だよ。秀吉が守ってくれたから」
「そうか……なら良かったな」
大事な人を守れた__
その時の秀吉は信長の寵愛する女としての認識しかなかった筈だった。
が、次の瞬間
涙ながらも微笑み「ありがとう」と言う愛香に心を奪われてしまった。
恋に堕ちるのに時間も理屈もない__