第16章 叶わぬ想い/豊臣秀吉
「っ……」
目の前で繰り広げられる信長と愛香の愛し合う光景を目の当たりにして秀吉は、唇を強くかみ締めていた。
どんなに愛香を見つめていても愛香は応えてはくれない。
(わかりきっている事だよな)
自分の想いに気付いてほしくない、でも気付いてほしい__
矛盾する気持ちはやり場を失い、秀吉を苦しめていく。
「寒いな……」
冷たい風が頬をすり抜けていく。
空を見上げればどんよりと曇っている空
まるで自分の気持ちを映しているかに思えて、苦笑いを浮かべてしまう。
「いい加減に諦めろ」
背中から声をかけられ首だけを動かすと、薄笑いを浮かべている光秀が立っていた。
「なんの事だ?」
「不毛な恋は破滅しかないぞ」
「破滅……か」
「お前にはそんな恋は似合わないだろう」
「ふっ……」
光秀の言葉に鼻で笑ってしまう。
自分に似合う恋なんてわかるわけがない。
「俺は黙って見守るだけだ」
自分自身に言い聞かせるように言葉を吐くと、一瞬眉をしかめる光秀であったが
「人の想いとは難儀なものだな」
慰めるかのように秀吉の肩を軽く叩いた。
(まったくだな)
光秀の言葉に妙に納得しながら信長達に背を向け、歩きだす。