第16章 叶わぬ想い/豊臣秀吉
背中に熱い視線が突き刺さるのを、愛香は感じていた。
その視線の主を確認しようと振り返ろうとすると
「気付かぬ振りをしろ」
小声で囁き、愛香を抱きしめる信長。
「え?」
「貴様も分かっているだろう?」
信長には分かっていた。
視線の主が誰なのか
分かっているからこそ、気付かぬ振りをする。
信長に忠誠を誓っている彼だからこそ
気付かれたくはないであろうと
それに誰であろうと愛香を渡すつもりはない。
信長にとっては生涯をかけて愛する女__
愛香に手を出す者がいるならば、たとえ秀吉であっても迷わずに斬ってすてるつもりだ。
「応えてやれないのなら知らない振りをしろ」
「……(そうだよね……信長様の言うとおりかもしれない。私は信長様以外の人からの想いには応える事は出来ないもの)」
信長の背中に腕を回し、逞しい胸に顔を埋めていると、あごをくいっと持ち上げられた。
信長の瞳は、まるで炎のように揺らめいていて目が離すことが出来ない。
「そうだ……貴様は俺だけを見つめていればいい」
満足気に笑みを浮かべるとそのまま唇を重ね、舌を絡ませる濃厚な口付けを交わし合った。
(ごめんなさい。私は信長様しか見れないの。
信長様を愛しているから)