第16章 叶わぬ想い/豊臣秀吉
冬独特な重たい曇り空の下
寄り添うように早咲きの梅の木を愛でる2人。
信長と愛香である。
「見事に咲き誇っていて素敵」
「気に入ったか?」
「はい、とても」
微笑み合い、仲むつまじい2人の空間だけ
春の陽だまりのような暖かな空気に包まれているように見える。
そんな2人を目を細めて見つめる秀吉の心は、複雑である。
主君である信長に忠誠を誓い、信長のためならば命さえ簡単に投げ出す覚悟を持っている。
決して信長を裏切る事はしない。
それなのに__
好いてはいけない相手に心を奪われてしまっていた。
信長の隣りで幸せそうに微笑む愛香。
彼女への想いは募るばかり
(俺も本当にうつけだよな)
信長の愛香への気持ちは、秀吉が一番知っている。
(愛香のために、自分を死んだことにして歴史上から織田信長を抹殺したんだもんな。
何故、そのような経緯に至ったか__
それは俺にも判らないが……)
時を超えて結ばれた2人の間に自分が這入り込める余地などない事を自覚してはいるが、心がついていかない。
だから、熱い眼差しで愛香を見つめてしまう。
決して愛香には届かない儚い想いだと知りながら