第8章 誰の顔も浮かんでこないわ
「藍ちーん。俺にもくれる?ねーねー、くれるー?」
さらに今はあっくんという巨体が私の頭の上に顎を乗せながら抱き付いている。全く身動きが取れない状態だ。
「あっくん…。重いからやめてっていつも言ってるでしょ」
彼は何かにつけていつも私に抱き付いてくる甘えん坊だ。
五人兄弟の末っ子というのだが、私は彼のお姉さんではないし、さらに言えば彼より40センチも小さい。毎回こう抱き付かれてはいつか潰れてしまう。
「紫原。華澄が嫌がっているだろう」
「赤ちん怒んないでよー」
「もう、あっくん。離れてくれたらチョコ二つあげるから」
「まじ!?」
ただ、あっくんは大ちゃんほどではないが単純なので、お菓子を餌にすれば簡単に離れてくれる。
「あ、そーだ。華澄」
何か企んだような怪しげな顔をしながら大ちゃんは私に言った。