第8章 誰の顔も浮かんでこないわ
その日の部活。
最近では、私の他に、さっちゃんも優先的に一軍に配属されるようになった。とはいっても、必ずしも毎日一軍担当というわけでもなく、時々二軍・三軍の方に配属される。
「とうとう明後日だね、バレンタイン」
ドリンクを作りながらさっちゃんが言った。
「カスミンは何作るか決めたの?」
「…まだ」
ついさっきまでその存在自体忘れてました、なんて言えない。
「私もまだなんだー。何作ろうかな」
うきうきした様子でさっちゃんは言うが、正直不安で不安で仕方ない。
そう、さっちゃんは壊滅的に料理ができない。
「時間ないんだし、さっちゃんは既製品でもいいんじゃない?」
それとなく、遠回しに、なるべく気づかれないようにさっちゃんに促すと、さっちゃんはキョトンとした顔で私を見た。
「それ…同じこと青峰君にも言われた」
「でしょうね」
だが、きっとあの大ちゃんのことだ。
私みたいにオブラートには包まず、ドストレートに言ったのではないか、と思う。
「でも、本命がいるわけでもないし、既製品でもいいかなーとは思ってるんだよね」
「いないの?意外」
「そういうカスミンはどうなの?」
さっちゃんに尋ねられ、少し考えてみる。
本命ね…。
つまり好きな人ってことでしょ?
好きな人、好きな人、好きな人…。