第3章 マネージャー志望
何も会話をするわけでもなく、ただ黙々と名簿にクラスメイトの名前を書き込んでいく。既に教室には、私と赤司君だけになっていた。
「赤司君…だったかしら?」
私が話しかけると彼は、手を止めて顔をあげた。
「赤司君は、自分の名字が嫌だな、とか思ったことある?」
「特にないが…。藍川さんはあるのかい?」
私も動かしていた手を止めて、彼を見た。
「私、出席番号で一番以外なったことないの。女子のなかでの話なのだけど。だから学年初めとかいつもこうなっちゃうのよ」
小学生のころからいっつもこうだ。
私は心底うんざりした顔で赤司君に言った。
そんな私を見てか、彼は私にこう尋ねた。
「…藍川さんは、名字で呼ばれるのが嫌いなのか?」
意外な質問に、私はきっと今きょとんとした情けない顔をしているのだろう。
「嫌いってわけじゃないけど…、慣れないわね。小学校の時はみんな名前で呼んでたし」
「そうか。では『華澄』と呼んでもいいかな」
「…全然いいけど」
なんか意外。中学生になったら名字で呼ばれることが当たり前になると思ってたし、まして真面目ちゃん、って感じだと思ってた赤司君から名前で呼ばれるなんて予想もしてなかった。
「じゃあ、私は『征ちゃん』で」
「せ、征ちゃん?」
「ダメかしら?私、友達とかみんな『ちゃん』つけて呼ぶんだけど」
「だめではないけれど…」
何よ、その複雑そうな表情は。
「仕方ないわね。じゃあ特別に『征十郎』で。よろしくね、征十郎」
「こちらこそよろしく、華澄」
そのあと、無事名簿作成を終わらせた私たちは、職員室まで届け、何とか今日の任務を終えた。
征十郎はこの後、早速部活見学に行くらしい。体育館へ行くという彼に、まあ体育館に用がないわけでもない私は並んで歩いていた。