第27章 逃げない
「征十郎…」
私の想い人、赤司征十郎。
「何か用かしら?」
「話がある」
「今?私、今あっくんと話していたんだけど…」
私はいつもながらポケットに手を突っ込んだまま、体の上半身だけ征十郎の方を向いて言った。
「敦、いいか」
征十郎の視線が私から、背の高いあっくんの方に移り、その瞳に彼の姿を映し出す。
あっくんは少しだけ、戸惑った表情を見せたが、またいつもの緩い顔に戻った。
「うん、いいよー。じゃーねー、藍ちん」
「待って、あっくん」
私が呼び止めると、あっくんはこちらを振り返らず、立ち止まる。
「何か言いかけてなかった?何だったの?」
「……」
先程言いかけた言葉が気になった私は、あっくんに問いかけるも、答えてはくれない。
不審に思い、私が首を傾げていると、あっくんはいつもの表情でこちらを向いて答えた。
「…ううん、なんでもなーい」
それだけ言うと、あっくんは元来た方向へ戻って行く。