第27章 逃げない
もう痛くも痒くもないはずの額の傷跡が疼き、私はそれを撫でた。
『お前よ…高校はどーすんだ』
「…まだ決めてないわ」
『もう十一月だぞ』
「さっきママにも同じこと言われたわ」
最近の夕飯時はいつも決まって母に「どこに進学するか決めたの?」「もう十一月なのよ?」と言われるのがお決まりとなっていた。
優ちゃんと同じ高校へ進学しようか、とも悩んでいるが、正直なところ、誰も私のことを知らない、そしてバスケ部のない所へ行きたい、というのが本音である。
『…こっちに来るか?』
「え?」
電話口から聞こえる言葉に私は耳を疑い、耳から携帯を離して三度見ほどした。
『おい、聞いてんのか』
「き、聞いてるわよ…。修ちゃんが変なこと言うから驚いただけじゃない…」
『何も変なこたぁ言ってねーだろ。お前のことだからどーせ、誰も自分を知らないとこがいい。とかバスケ部がないとこがいい。とか思ってんだろ?』
流石は従兄。
顔を見なくとも、ここまでわかるなんて。
ちょっと引いたわ。
『誰もお前を知らねーとこなんて、日本にあると思ってんのか?どれだけ有名だと思ってんだ』
「……」
修ちゃんの言う通りだ。
いくつもの雑誌やテレビの取材を受けてきた私は、『キセキの世代』とまではいかなくとも、それなりに有名だ。