第26章 色を失ってゆく
私は征十郎にも伝えなければならないため、何かしら言い合う二人に視線を向けた。
「黒子に!絶対またやろうとだけ言っといてくれ…!」
どこの誰かも知らない彼は、それだけ言ってその場を去っていった。
「征十郎、テツ君が目を覚ましたわ」
「ああ」
征十郎にしては長い取り込みだったと思う。
まあ、あのなんでも簡潔に終わらせる征十郎が長引かせるわけもないし、間違いなく、先程去っていった彼が何か言い続けただけなんだろうけど。
医務室の中へ入っていく征十郎に続いて私も中へ入った。
「テツヤ…具合はどうだい?」
征十郎は先程までさっちゃんが座っていた椅子に座り、テツ君に声を掛ける。
テツ君も段々と意識がハッキリしてきたのか、ゆっくりと視線をこちらへ向ける。
「赤司君…桃井さん…藍川さん…」
あ、やっぱりさっきは私のこと認識していなかったわね。
「試合は…」
「勿論勝ったよ。決勝はあと五分で始まる。だから悪いが今は僕だけだ」
「僕も…出ます…!」
「テツ君…!」
決勝、という言葉を聞いた瞬間にテツ君は急に起き上り、試合に出るとまで言い出す。
さっちゃんは慌ててそれを止めた。
「ダメだ…医者に安静にしていろと言われている。大人しく寝ているんだ」
「でも…!」
「わかっている。荻原君だろう?」
「!」
「先ほど廊下で会ったよ」
んん?話が見えてこないんだけど。
先程まで征十郎が言い合っていたのは『荻原君』というの?
確か、明洸のジャージを着ていたような…。
「絶対にまたやろう、そう言っていた」