第21章 もう知らない
すると、こちらの様子に気づいた征十郎が、急に何を思ったのかこちらへ向かってくる。
「来い」
「は?え?」
そして、そのまま私の手を引っ張って立ち上がらせると、ずんずんと人の少ない方へ歩いていく。
「…ホント、素直じゃないッスね。ただの嫉妬じゃないスか」
征十郎は、周りに全く人のいない岩場まで私を連れてくると、漸く手を離して、こちらに向き直った。
「お前は黄瀬が好きなのか」
「は?いきなり何なのよ」
日差しにあたるのが嫌でわざわざ日陰にいたというのに、こんなところまで無言で連れてこられて、挙句の果てには、黄瀬が好き?
ふざけるのも大概にしてほしいもんだわ。
「好きなのか?」
「そんなわけないでしょ。どこをどう考えたらそうなるのよ」
私が答えると、征十郎は一応納得したように、黙り込む。
「話はそれだけ?私もう戻るわ」
「待て。話はまだ終わってない」
「私は話すことなんて何一つないわ。ここに落ちてるワカメでも食べてないさいよ」
私は足元に落ちているワカメを指さしながら言った。
「(…ん?ワカメ?)」
と、その途端に足の裏でヌメッとした感触が伝わって、私は気持ち悪さに思わず飛び跳ねた。
「馬鹿っ!」