第5章 「怖い」と感じた
あれから少し経ってからのこと。
「華澄、青峰知らねーか」
片づけをしていた私とさっちゃんの元へ修ちゃんがやってきた。
「知らないわ。さっちゃんは?」
「私も知らないかな。最近青峰君、練習が終わるとすぐどっかに行っちゃうんだよね」
入学当初は私と同様に『大ちゃん』と呼んでいたのに、いつの間にか『青峰君』と呼ぶようになっていた。何故か『大ちゃん』と呼ぶと冷やかされるかららしい。
私も『大ちゃん』と呼んでいるのだから、気にすることないのに、と言ってもさっちゃんは『青峰君』と呼び続けた。
「そうか。ちなみに灰崎は?」
「祥ちゃんならまだその辺りにいるんじゃないかしら。また何かあったの?」
修ちゃんが彼の名前を出すときはろくなことがない。
祥ちゃんも決して悪い人ではないのだが、なんせ普段の素行が悪い。それが部活に関わることであれば、その度に修ちゃんからお灸をすえられるのだ。
「今日遅れてきただろ。シメれるうちにシメておこうと思ってな」
凶悪な笑みを浮かべる修ちゃんに、私もさっちゃんも苦笑いで、へぇ、としか答えられなかった。
「お、いた。おい!灰崎!てめ、何こそこそ帰ってんだ!」
「げ」
祥ちゃんも何やっても毎回やられるってわかってるんだから、部活くらい真面目にやればいいのに。
だが、この二人のやり取りを見るのもなかなか面白く、私はさっちゃんを顔を見合わせて笑った。
「あ゛ーっ!華澄、さつき。笑ってねーで助けろ!」
「うるせー!」
片づけも終わり、今日は私が戸締りに鍵の返却をするということで、さっちゃんに別れを告げ、職員室に向かった。
ついで、と言ってはなんだが、この後征十郎のところへ行き、来週末の練習試合のデータを渡さなければならないのだ。
「華澄、終わったのか」