第18章 形無しだわ
「浴衣、とても似合ってるよ」
カランコロン、と下駄を鳴らしながら並んで歩いていると、征十郎は私にいつもの笑みを見せながら言ってくれる。
「本当?ありがとう。征十郎も凄く似合ってるわ」
「ありがとう」
征十郎はクスッと笑いながら答える。
そりゃもう、似合ってますとも。”高嶺の華”なんぞ呼ばれる私が霞むほどに。
そんな征十郎にまたも見とれてしまっていると、慣れない下駄のせいもあって、少し躓いてしまう。
「おっと…」
転びそうになる私を征十郎は受け止めてくれる。
「ありがとう…」
「気を付けて」
そう言いながら征十郎は、私の手を握った。
「これは…?」
「華澄は意外にも運動音痴でドジなところがあるからね。もう転ばないように」
「運動音痴はほっといてくれるかしら…」
ハハッと笑いながらもしっかり私の手を握ってくれる征十郎。
私は少し顔が赤くなるのを感じながら、心臓はバクバクと音をたてる。
手からこの心臓の音が伝わりませんように!なんて祈っていると、征十郎が口を開いた。
「…実は華澄に言わなければならないことがあるんだ」
「?」
首を傾げ、征十郎の言葉を待っていると、征十郎は申し訳なさそうな顔をして言った。
「知り合いに頼まれて、将棋の大会に出ることになってしまったんだ」
「うん?いつ?」
「今日」
……。