第4章 深く考えるのは止そう
しまった、と思ってももう遅い。
私はそのまま、全くびくともしない強い力で引っ張られ、施設とは全く違う方向へ連れて行かかれそうになり、途端に言い様のない恐怖が襲う。
「ちょっ、離してよ!」
「無理かなー」
離せよ、馬鹿!
どうにか逃れようとあれこれやってはみるものの、やはりびくともしない。
これまでも修ちゃんをはじめとするバスケ部の部員たちには腕を引っ張られたり、頭を叩かれたり、といったことはよくあった。
しかし、それも簡単に振りほどくことができていたのだ。だが、今回はできない。
…私は男の子の力を舐めていた。そもそも女の私が男の力に敵うわけがない、ということは考えてみればわかることだったはずだ。
…あぁ、こんな事ならやっぱエリカさんについて来てもらえば良かった。修ちゃんにもきちんと言えばよかった。言っていればきっと、エリカさんでなくとも手の空いてる部員はいたのだから誰かついていかせてくれていただろう。
沢山の後悔が頭の中をぐるぐると回り、目に涙も浮かんでくる。が、今更何もかも遅い。
「や、だ…誰か…」
誰か、助けて…。
誰か……征十郎っ
「すまないが、その手を放してもらえるか」
凛とした声が聞こえた。
顔をあげると、そこには征十郎が立っていた。
征十郎だけではない。修ちゃん、祥ちゃんに安静にしているはずの大ちゃんまでいた。
「なん、で…」
「何だ、てめーら」
「聞こえなかったのか。その汚い手を放せ、と言ったんだ」
征十郎が眉に皺を寄せて言った。
「…あんだと、このチビが!」