第15章 これが恋というものか
そんな彼女に一つため息をつきながら、私は口を開いた。
「言っておくけど、その私のイメージはただの幻想だと思うわ。私、”高嶺の華”っていうたまじゃないのよ」
「またまたー」
「あなたが私にどんな幻想を抱くのかは勝手だけど、現実を知って幻滅なんてしないでよ?」
「え?」
彼女は私の言葉を聞いて、手を止めて目を丸くした。
「あなた、名前何て言うの?」
「ま、松本優奈、…です」
「優ちゃんね。私のことは好きに呼んでいいわ」
私がそう言うと、優ちゃんは一瞬キョトン、とし、次の瞬間には嬉しそうな表情をして私にズイっと顔を近づけた。
「じゃ、じゃあ、『華澄ちゃん』って呼んでも?」
「別に呼び捨てでも構わないのよ?」
「いいの!?じゃあ…えっと…華澄…?」
「アハハッ。どうしてそんなに緊張してるの?」
「だってぇ」
先程までの威勢の良さはどこへ行ったのか、私の名前を遠慮がちに顔を真っ赤にして呼ぶ優ちゃんを、私は「可愛い」と思った。
これは今年のグランプリは彼女かもしれない。