第3章 マネージャー志望
前方に数人のバスケ部らしき人影が見えた。その中には見慣れた大きな後姿もあった。
「修ちゃん」
私が呼べば、「だーかーらー」と至極嫌そうな顔をした従兄が振り返る。
「『先輩』と呼べって何回言えばわかんだ?あ゛?」
「いったぁ」
そう言いながら私の額にデコピンをかます。
もはや最近ではお決まりとなってきているこのやり取り。修ちゃんのデコピンは本当に冗談とかではなく痛い。
私が彼を『虹村先輩』と呼べば事は収まるのだが、なんせこの12年間『修ちゃん』と呼んできたため、急にそんな呼び方はできないし、何というか、気持ち悪い。
「虹村、いいじゃねーか」
「そうだよ、『修ちゃん』。なら、俺ら先に行ってるわ」
修ちゃんと私をその場に残して、先輩たちは部室の方へ行ってしまった。
「ったく、あいつら。後でシメてやる」
頭の後ろを掻きながら修ちゃんはいう。さほど嫌がっていない時の修ちゃんの癖だ。
何よ、別に嫌がってはないじゃない。
「で?何か用か」
「それはこっちのセリフなんだけど」
修ちゃんが私に用があるというから、わざわざ得意でもないのに走ってきてあげたのだ。
「あー、あれだ。ゴールデンウィークの遠征、お前も行くことになったから」
「…冗談でしょ?」
「まじ」
いくら一軍を優先的に担当するようになったからと言っても、たかだか入部間もないマネージャーを連れて行っても意味はないのではないか。ましてや、遠征に行っていては遊ぶにも遊べない。
「三年のマネージャーがお前を優先的に色々教えたいんだと。いいじゃねーか、期待されてんだろ」
「えー、そんな…」
そんな風に言われてもプレッシャーでしかない。
「早いうちに仕事覚えるに越したことはねーって」
確かにそれはそうなんだけど…。