第12章 馬鹿とは何よ
あの時のように腕をつかまれたり、ということはないのだが、流石に困った。
「気持ちは嬉しいんだけど、本当にもう戻らないと…」
まだ辛うじて”高嶺の華”を演じる気力は残っていたので、営業スマイルを張り付けたまま少し眉を下げて困ったようにして言った。
それでも彼らは引き下がらない。
本当に困り果て、どうしようか考えていた時。
後ろから急に手を引かれた。そして私はそのまま手を引いた人の胸の中にポスッと収まる。
「全く、何をやっているんだ」
「征十郎」
手を引いた人物は征十郎だった。
とりあえず、手を引いた人物が帝光の人だったことと、この場から切り抜けれる、と私は安堵の息をついた。
「あら?練習は?」
体育館からはまだバッシュのスキール音が聞こえる。
「華澄の姿が見えたから見に来たんだ」
「そう。それはごめんなさい」
「え、待って。そいつ帝光の赤司やん!?」
征十郎に申し訳ないことをした、と思っていると、目の前の出来事に関西弁の彼らは言う。
「え、何々?もしかせんでも赤司が彼氏なん!?」
「やっぱ、こんだけ美人で彼氏おらんとかないわなー」
「せやなー。残念や。赤司が彼氏かー」
「行くぞ」
口々に言う彼らに目もくれず、征十郎は私の手を引っ張ってその場を離れる。
が、いつも以上に私の腕をつかむ力が強くて、少し痛い。
私も慌ててドリンクの籠を持って征十郎に連れて行かれるままに足を進めた。
「征十郎?ちょっと痛いわ」
彼らから離れた位置まで来ると、征十郎は漸く私の手を離してくれた。