第3章 マネージャー志望
ある日の放課後。
「沢山つくりすぎちゃったわ」
「俺がもらうよ」
「…征十郎も自分のがあるじゃない」
一緒に部活へ向かう私と征十郎は、私の持つ紙袋の中のクッキーを見てはこれをどうしようか、と考えていた。
征十郎は初めの頃こそ真ちゃんと私の癖をよく注意していたが、最近は諦めたのか、何も言わなくなった。
しかし、いま私の手にはなかなか重みのある紙袋があるため、ポケットに手を突っ込むことができないのだ。というのも、今日も調理実習で、同じ班の子が分量を間違えてしまったために、私の班だけ大量のクッキーが出来上がってしまったのだ。
別にまずいわけではないので、修ちゃんにでも押し付けようか、と考えていたとき、後ろから間の伸びた声がした。
「あら~?赤ちん?」
バスケ部の紫原敦君だ。
「紫原か」
「赤ちん、今から部活ー?一緒に行こー」
「ああ」
部活では毎日のように見ているのだが、流石にこんな間近で見たのは初めてで、全く従兄に似ず、150センチと低身長な私は首が痛くなるほどに見上げなければならない。
本当に大きいな、つくづく思う。
「あらら?この人誰ー?見たことはあるんだけど」
見たことはあるんだけど、ってそりゃマネージャーですからね。ていうか、入部から二週間経っているのだけど。
「マネージャーの!藍川華澄です。よろしくね、紫原君」
マネージャーを強調して言った私はきっと、今凄くイラついた顔をしているのだろう。
確かに帝光中バスケ部は一軍だけでも相当な人数だ。覚えるのは大変だというのはわかるけど、いい加減覚えてくれてもいいじゃないの。
「ふーん。まあ、どうでもいいけどー」
ブチッと頭の中で何かが切れたような音がしたが、ここでキレるほど私も子どもではない。
なにより、安易にキレたりして「そこだけは似てるのね」と、あの従兄と比べられるのが癪なのだ。