第10章 あくまで反対だからね
「…え?」
奴は自分の顔の真横に刺さるボールペンと、刺さったことによって壁がミシミシと音をたてるのを聞いて、漸く状況を理解したのか、ダラダラと汗を流し始めた。
「あなたが黄瀬涼太君よね」
自分でも驚くほどに低い声が出た。
「そ、そっスけど…」
「どうも、マネージャーの藍川華澄です。よろしくね」
私はここ一番のとびきりの笑顔で顔をあげ、奴に言った。
後ろではあっくんが「藍ちんのあの笑顔逆に怖ぇんだけど」と言ったのが聞こえたが、聞かなかったことにする。
「…ところで黄瀬君。今、マネージャーは暇だとか、言ってなかった?」
私があっくん曰く「逆に怖い」笑顔を保ったまま奴に尋ねた。
「い、い、言ってないッス!言ってないッス!!」
奴は首をぶんぶんと振って否定する。
「そう。だったらいいのだけど」
私はゆっくりと壁に刺さったボールペンを抜いた。
「もし、次舐めたこと言ったら…」