第1章 我慢は体にも頭にも良くないよ/紫原敦
「…敦君、生きてる?」
翌日の朝、まだ1限目が終了してすぐの休み時間のことだ。
机に突っ伏して項垂れているのは紫原敦だ。
「むり…いきらんない…」
昨日、あの時から紫原はあることを強いられた。
『だから……紫原、お前にはお菓子禁止令を命ずる』
紫原にとってはとんでもない命令だったことだろう。
その証拠に、激しく悲痛な叫びが廊下に響いた。
「家に帰ったら食べれると思って帰ったらさ…なんでかわかんないけど、姉ちゃん達みんなこのこと知ってんの…」
「えっ」
「赤ちん怖い…」
やるべきことは徹底的に。
それが赤司征十郎のやり方である。
そのおかげで紫原はあれから全くお菓子を食べていないのだ。
代わりに昼食の量は増えたが、それはエネルギーになるということで赤司も誰も止めはしない。
「紫原っちも大変っスねぇ」
そう言ったのは同じクラスの、そして今年バスケ部に入部したばかりの黄瀬涼太だ。
「そう思うならお菓子ちょーだい…」
「そうしてあげたいのは山々なんスけど、オレも特別メニューさせられるのはゴメンなんで」
「黄瀬ちんの薄情者〜」
「なんでっスか!」
ちなみに課せられた期間は2週間。
紫原が練習に影響が出にくいギリギリまで我慢出来て、かつキチンと反省するだけの期間だ。
さすが赤司といったところか、紫原の性格を考えた完璧な策である。
「敦君、まだ2日目だけど頑張って」
「ん〜…。ちんあん時の鼻、もう大丈夫なの?」
「えっ?あー、大丈夫だよ!もう全然痛くない」
「そっか〜、なら良かった」
ただこうして人の心配をするところは褒められたものだ。
(あえて本気で心配しているかどうかは置いておこう。)
そして2限目の数学の時間が始まり、なぜか紫原はいつも以上に優秀だった。
教師が紫原を当てても、完璧に答える。
いつもは第一声は必ず「えー、なに?」と言うのに、一発目からキチンと解答するのだ。
お菓子禁止令のおかげなのか、おかげと言っていいのか、何にせよそれが影響していることは間違いない。
「お腹空いた〜〜…」