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短編集《 黒子のバスケ 》

第3章 tear and smile/黒子テツヤ



カントクがいるからといって、やっぱり知らない人ということで少し不安なようだ。
カントクは優しい人だから大丈夫だと言い聞かせると、うん、と戸惑いながらも笑顔を見せてくれた。
久しぶりの笑顔。
まだ堅い笑みだったけれど、少し懐かしくて涙が出そうだった。




「さん、どうですか、バスケ」



練習の合間に彼女に話しかけてみると、だいぶ緊張がとれたようだった。



「うん…みんな凄いね…。楽しそう」
「してみますか?」
「えっ、や、いいよ…」
「どうしてですか?」
「私…運動音痴だもん…」



思わず笑ってしまった。
記憶が無くなる前と、全く同じやり取りをしていたから。



「そ、そんな笑わなくても…」
「あ、すみません。そういうつもりじゃなかったんです。ただ、少し懐かしくて…」



彼女は首を傾げた。当たり前だ。
今の彼女にその時の記憶は無いのだから。



「君は以前にもそう言ってました。でも、やってみればすぐ出来るようになってましたよ」
「ほ、ほんとに?」
「はい。ボクよりも上手でした」



そう言ってボールを渡してみると、ゴールに向けて投げる。
が、ボク達の真似をしてワンハンドで投げたのでボールはリングに当たって跳ね返ってきた。



「わっ」
「ボール、大きいですからね。両手でもう一度投げてみてください」
「うん…。ほっ」



すると、今度は少し不格好ながらもボールはリングを通り抜けた。



「は!入った!」



そう嬉しそうにはしゃぐ彼女は、記憶を失くす前の彼女そのものだった。
少しずつ、本当に少しずつだけれど、確実に取り戻してきている。
こうしてたくさん楽しいことを知って、思い出して、もっと彼女の笑顔が増えたらいいなと、ボクは願った。

それから数日、何度も彼女は部活に来てはシュートを打っていた。
いつも楽しそうに嬉しそうにプレイする彼女。
その様子を見て、ホッとするような寂しいような。
もちろん、楽しそうなことは嬉しい。
だけど、それが本当に心からなのかはわからない。
本来の彼女であれば、もっともっと楽しそうにしていたはずだ。
まだ少し寂しそうな表情が、ボクの胸を締め付けた。





《 next to "smile" 》


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