第3章 tear and smile/黒子テツヤ
それから数日後、彼女は晴れて退院した。
だけど記憶は戻っていないまま。
彼女の両親から娘をよろしくと頼まれたボクは、学校でただひたすら彼女を支え続けた。
ボクの存在に驚くことは前からだけれど、一つ違うことはその後の反応。
前はボクに気づいて驚き、でも必ず嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
ボクはその顔が好きだった。
だから驚かれることも苦痛じゃなかった。
だけど、今は、
「!…く、黒子、君…」
驚いてはお怯えた顔をする。
それは彼女も無意識で、その原因もあの日が関わっていることはボクもわかってはいたけれど、それでも笑顔が見れないのは辛かった。
「そんな泣きそうな顔、しないでください。驚かれることは慣れてますから、ボクは大丈夫ですよ」
だけど、それを顔に出すことはしない。
ボクが今するべきことは、悲しむことなんかじゃない。
彼女を支えてあげることだ。
「今日は良いもの見せてあげます」
「…良いもの?」
「はい、良いものです」
いつも放課後は彼女の両親が迎えに来て、すぐに帰ってしまう。
が、今日は彼女に少しでも気を紛らわせてほしい、楽しいことを見つけてほしい、そんな思いでご両親に許可を得て、残ってもらうことにした。
そうして連れてきたのはもちろん、部活をしている体育館。
着替えは体育館の舞台袖でして、なるべく彼女から離れないようにした。
「えと、黒子君はバスケ部…だったっけ?」
「はい、そうですよ。もうすぐ知らない人たちがたくさん来ますが…大丈夫ですか?」
自分で連れて来ておいてなんだが、正直恐怖まで取り除くことは出来ないため不安だ。
だけど彼女は大丈夫だと頷いた。
「ちわーす」
「あれ、黒子早いな」
「火神君、降旗君、河原君、福田君。こんにちは」
「あ、昨日言ってた子?」
「はい」
もちろんバスケ部のみんなにも許可はもらっている。
カントクがいるから彼女も不安じゃないはず。
「あら、もう来てたの?こんにちは」
「こ、こんにちは…」
「カントク、さんをよろしくお願いします」