第1章 カワイイあの子にありったけの愛を/及川徹
「なんっ で、そんな いじわ る ばっかり、言うの?」
「あ、えと、」
ああ、なんでこうなるんだろ。
ていうか今までで一番酷かったかもしれない。
いくら他の奴に取られそうになったからって、あんなに言うことはなかったはずだ。
後から言っても仕方ないけど、もうほんと俺ってバカ。
「徹くん、私のこと、嫌いなの?」
「え?!ちがっ、」
なに言ってんの、と言いかけてハッとした。
そう思わせてんのは確実に俺だ。
意地悪にしても度が過ぎた。
謝って許されるだろうか。
「ごめん、嫌いじゃないんだよ」
「じゃあ、なんで…っ」
なんて言えばいいのさ。
正直に答えたら余計困らせるだけじゃん。
でもじゃあなんて?
誤魔化しなんてきかない。
それに下手すりゃもう一生口をきいてくれないかもしれない。
それだけは阻止しなければ。
「及川が女の子泣かせてるー」
「うわーモテ男が女の子泣かせてるー恥ずかしー」
「ちょっと!野次飛ばすのやめてくんない?!真剣なお話中だから!!」
涙を流すのを堪えるように唇を噛んで、拳をギュッと握っている。
ああ、2つしか変わらないっていうのに、女の子ってしっかりしてるなぁ。
俺より全然大人なんじゃないのかな。
「俺、のこと甘やかせられないんだよね」
「え…?」
「好きな子ほどいじめたくなる…ってやつ?」
そう言うと、は少し考え込んだ後、小さな声で ほんとに…? と聞いてきた。
可愛いなぁ。ほんとだよ。だからもう泣かないで。
スッと今にも流れ落ちそうな涙を拭い取り、微笑んでみせた。
「…だったら、これからはもう少し優しくしてね」
「うっ、肝に銘じておきます…」
2つ下の彼女に俺は頭が上がらない。
だけどきっと俺が彼女を思う気持ちは誰よりも大きい。
「ちなみに花巻さんは協力者だからね」
「えっ?!」
だからこそ、もうやり過ぎた意地悪はしません。
そう誓った高3の、夏。
end.