第4章 大きな背中/相澤消太
「…で?なんだ」
「いやぁ…大した用事は無いんですけど…」
「…」
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ!そりゃお忙しいところ足を止めてしまって申し訳ないなぁとは思いますけどね?!いいじゃないですか!生徒が先生を慕ってるんですから!」
「たまになら可愛いもんだ。お前は毎日だろうが」
コン と私の頭に拳を置く相澤先生の手は、ちゃんと大人の男の人の手だ。拳でもわかるくらい、大きくてしっかりとした手だ。
「…先生、もっとこっちにも授業来てくださいよ…」
「そうだな。暇があればな」
「もー!普通科だってヒーローになりたい生徒が溢れてるんですよー!」
「知ってる。それはよくわかってるよ」
そう言って、相変わらず無愛想な顔で、その大きくてしっかりとした手を広げぶっきらぼうに私の頭を撫でる。
…なんてズルい大人だ。
「先生、それしたら私が黙ると思ってまた…」
「実際大人しくなるだろ。…犬みたいに」
「ワン。ってコラ!酷いな!」
「バカだな。…ほら、そろそろ休み時間終わるぞ。教室戻れ」
「…はーい」
忙しいのは知ってる。ヒーロー科は今まで本当にいろんなことがあった。それを対処するのは当然教師で、担任である相澤先生は誰よりもいろんなことを考えて動いている。知ってるんだ。
それでも…いや、だからこそ、ただの一生徒だけど誰よりも相澤先生を想っているだろう私に何か出来ることは無いのかと思ってしまうのだ。
「はぁ…。悔しー…」
一見小汚くて怖くて立ち入りにくいけれど、本当はすごく強くて生徒思いでカッコいい、少し猫背なその背中を見つめながら私は深く溜息をついた。