第4章 大きな背中/相澤消太
普通科の私がプロヒーローの先生に恋したのは、雄英高校の寮制度を開始して少ししてからのことだった。
それはある日の放課後。
私はいつものように図書室に行き、いつものように最後に出て鍵を閉めて職員室へ行った。いつも職員室は先生達が仕事をしながらも楽しそうに話している。たまに私もそこに混じらせてもらって、プロヒーローの話を聞かせてもらうのだ。
だがその日はいつもと少し違った。書類が机いっぱい広がったその机の主、相澤先生がいなかった。最初はトイレにでも行ってるのかと思ったのだが、話している間も帰って来ない。
私はなんとなく気になって、話を途中で切り上げて職員室を出た。出る時にチラリと見たその書類には、生徒一人一人のデータらしきものが見えた。
その時私は、相澤先生が生徒思いな人だと知った。
「…あ」
廊下を歩きながら外を見ていると、中庭のベンチで寝転がる相澤先生を見つけた。
「(寝てる…?)」
風邪をひくといけないと思い、起こそうと中庭へ出る。ゆっくり近づくと、パチっと目を開けて相澤先生はこちらを見た。
正直、その時はビックリしたし怖かった。
「…お前…普通科の…」
「ぁ、です…。先生、こんなところで寝たら風邪ひきますよ」
「ああ、すまん。…起こしに来てくれたのか」
「たまたま見かけたので…」
「…そうか。ありがとう」
「い、いえ」
そこからしばらく、沈黙が続いた。先生は寝ぼけているのかボーッとしていて、私はなんとなく帰りづらくなってしまっていた。
そしてその沈黙は、相澤先生が先に破った。
「…帰らないのか?」
「え、あ、帰ります…!…帰ります、けど…」
「ん?」
「えっと…こんなのでリフレッシュになるかわかんないですけど…」
ふわっ
私は自身の個性で風を起こした。なるべく優しく、でも弱くなくて強くもない、そっと包み込むような風を。
ほんの少しでもいい。疲れている相澤先生の頭がスッキリするような、優しい優しい風を。
「…へぇ」